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サレジオ会 日本管区 Salesians of Don Bosco

総長メッセージ7・8月:希望のツナミ


総長メッセージ(Bollettino Salesiano 2022年7・8月)

希望のツナミ

悲しみと死の土地には、今、ドン・ボスコの子らの働きによって、愛情あふれる再生とゆるぎない希望の家が建っています。

ドン・ボスコのカリスマの友である皆さん、今月もまた、心からの挨拶を送ります。友情の最も素晴らしい要素の一つは、様々な感情、喜びや不安を分ち合えることだと皆さんはおわかりのことでしょう。そこで、私が最近、恵みのうちにタイのサレジオの兄弟姉妹の間で経験したことを喜んで分ち合おうと思います。

数週間前、私はタイにいました。長年にわたり大きく発展してきたサレジオの共同体と事業を活気づけるため、私は世界の中でも魅力的なその地に赴きました。訪問の目的の一つに次のことがありました。現代史のきわめて悲しい数ページが書かれた、深い悲しみの地、今日ではいのちの再生の場所となっていますが、そこにある小さいけれども美しいサレジオの拠点を知ることでした。そこは現代の最も苛酷な自然災害、2004年12月26日の津波が起きたところです。

津波は約23万人もの犠牲者、さらに数千人の行方不明者を出し、地域全体、海岸、人々の生活が完全に破壊されました。無に帰したのです。あれほど高い波をかつて誰も見たことはなく、14メートルに達したところもありました。クリスマス休暇を過ごすために世界中からやってきた何千もの旅行者共々、ホテルが施設ごと運び去られました。

サレジオの拠点のあるその場所、最も被害の大きかった地域の一つであるカオ・ラク、特に外国人にとっては「天国」のような観光地であった小さな漁村では、死者と行方不明者が8000人にもなりました。途方もない悲劇です。

その時、私の前任者チャーベス神父様は、新しいサレジオ会の施設を建て、津波で孤児となった子どもたちを引き取るために、直ちに動き出すようタイの管区に要請しました。

それまで、タイのその地域にサレジオ会は入っていませんでした。けれども、ドン・ボスコが私たちに遺した精神と活力により、すべてが取り図られました。わずかの間に少なくとも117人の少年少女に家が与えられました。そこでは大きな家族が彼らを迎え入れ、安全が提供され、悲しみのうちにあっても希望をもって人生に目を向ける可能性が与えられました。

年月が流れ、あの時の少年少女は成長しました。彼らは教育を受けることができました。そして今では自分の家庭を持つ大人になり、しっかりと生活しています。悲劇の只中にも祝福があったのです。

 

新たないのちの奇跡

18年を経た今日、幸いカオ・ラクには津波による孤児はもういません。そこで、私たちは尋ねるでしょう。あのサレジオの拠点はどうなったのでしょうか。

私はそれを自分の目で見ることができました。私たちが到着すると、6歳から15歳までの子どもたち42人が待っていました。彼らは友情と家庭的生活の素晴らしい経験をしています。5棟の魅力的な六角形の家に分かれて住み、そこには台所、洗濯室、手洗い、シャワー、勉強部屋、食堂、寝室があります。その地域全体がそうであるように、そこは天国のようです。植物は葉が生い茂り、青々としています。気温は高く、いささか息苦しくはありますが。家の裏には緑の丘があり、村を「見守って」います。少し先には樹木に覆われた丘の縁取る砂浜が長くのびていて、インド洋の澄んだ温かい水が岸辺に打ち寄せています。サレジオ会の家の隣には、私たちの少年少女が通う公立の学校があります。

その少年少女は誰でしょう。彼らは海の津波とは無縁ですが、人生、貧困、家庭崩壊の津波と関係があります。彼らの大半には両親がいません。遠縁のおじか、さらに離れた血縁者、ほとんど面識のない親せきが保護者になっています。

サレジオの家は人生を変える、本当の「奇跡」を起こすチャンスです。そうです。繰り返しますが、本当の「奇跡」です。このことで驚かないでください。そこにいる少女たちが自分たちの家となったこの場所で、幸いな環境のなか人生に備え、世話され守られていると感じ、しつけをされ、時には最高のレベルで勉強する機会を与えられていると知り、私は本当に感動したのです。どうして私が奇跡というかおわかりですか。このチャンスがなければ、あの13歳の子どもたちは売春や未成年を搾取するネットワークに身を落とすか、14歳でずっと年上の男性と結婚させられたりするかもしれないのです。

私は思いました。「このこと一つ取っても、ドン・ボスコのカリスマの素晴らしい理想の価値を十分に示している。それは165年経った今も具現化され、実現している」と。

素晴らしいと感じたもう一つのことも付け加えましょう。皆さんはそこにサレジオ会の共同体があるとお考えになるかもしれません。ところが、そうではないのです。タイにおける私たちの拠点と対応しなければならない現場はあまりに多く、多様で、広範囲であるため、サレジオの共同体としてすべてに取り組むことは不可能なのです。そこでサレジオの事業所には、サレジオの教育に取り組むさまざまな人が勤めています。ことに「ドン・ボスコの希望の家」では、奉献生活を送る2人の信徒の女性がその教育の現場の責任を持ち、1日24時間母親代わりを務めています。サレジアニ・コオペラトーリ会員の夫婦もいて、管理の仕事、買い物、そのほかの必要に対応しています。さらに本物のマンマ・マルゲリータのような女性が料理を作り、食事の準備を監督しています。サレジオ会管区は、必要なものが事欠かないようにしています。他の多くの事業所と同じように、同じ愛情で大切にされているのです。

おしまいに二つのことを言いましょう。第一に、サレジオらしい創意工夫によって、その少年少女たちは高品質の工芸品を作り、後でそれを販売しています。そこから得た利益は取っておかれ、彼らがサレジオの家を出てゆくときのささやかな資金となります。サレジオ会管区は少年少女が作った工芸品を展示し売ることのできる店舗を準備しています。工芸品が広く知られるように、特に多くの旅行客の目にとまるように。

第二に、このドン・ボスコの家の少年少女のうち12%が大学に行き、15%は私たちの職業学校で技術を学ぶこと、50%以上は公立の学校を終えたあとで独立して生活できるような仕事に就くということを知り、私の心は喜びに満たされました。残りの子たちは、連絡が途絶え、近況がわかりません。

あの場所で、私はただ美しい夢を見ただけではありません、実際に起きていることに深く心を打たれました。これは本当に起きているよきこと、よき知らせの一端です。発展し続けますが、大きな音は立てません。しかし世界を一層美しくしてゆきます。

だからこそ、今日、津波の悲しみは希望の美しさに道を譲るのです。この世界にはよきこともまたあると、信じ続けましょう。

皆さんのための心からの祈りをこめて。

総長アンヘル・フェルナンデス・アルティメ神父

《翻訳:サレジアニ・コオペラトーリ 佐藤栄利子》

 

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