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サレジオ会 日本管区 Salesians of Don Bosco

“希望はどこに?”



 シリアでは、3年に及ぶ内戦の結果、人々、そして若者たちの間にあきらめが広がり、希望や信頼も萎えてしまっています。しかし、厳しい試練の中、信仰は失われていません。くじけずに生活を続けるのは大変困難です。なぜなら、戦争に終わりが見えず、何よりも、戦争が終わった後どうなるのかがわからず、復興にどれほど時間がかかるかもわからないからです。その上、イスラム原理主義への恐怖が大きくのしかかっています。
サレジオ会中東管区長 ムニール・エル=ライ神父
 そのため、宗教にかかわらず多くの人が国外へ移住しています。国を後にしたキリスト教徒の比率は高く、留まることを選択した人々に重いプレッシャーとなっています。
 シリアの周りで起きていることも忘れてはなりません。イラクのキリスト教徒の状況、レバノンで起きていることなどです。移民の問題は悲劇的で、国際社会や国連をはじめ、すべての人が知り、対応すべき問題です。この大きな災いに解決策を見いだすため、皆が貢献すべきです。
 希望を保ち続けるのは大変です、しかし、シリアに留まる人々が類まれな勇気を頼りに日々を過ごしていることに気づかせてくれる、前向きなしるしが見られます。人々は人生を歩み、結婚したり、さまざまなお祝いもあります。子ども・若者たちは学校や大学に通い、仕事を見つけることができた人は働きます、どんな仕事でもします。置かれた状況に適応しようとするたくましさがあり、あらゆる機会を見つけてはお祝いをします。留まった人々はリスクを恐れていません。しかし、このような勇気も、いつまで続くでしょうか。
 
カフルーンのサレジオ会

 2014年7月2日、水曜日、私はレバノンからシリアに入り、カフルーンの共同体に直行しました。ここでは、特にサレジアン・ファミリーのメンバーなど、アレッポからの避難民を受け入れています。主に、サレジアニ・コオペラトーリや協働者の家族です。
 カフルーンの支部は、一人のイタリア人宣教師、ルチアノ・ブラッティ神父の下、すばらしい働きをしています。サレジアニ・コオペラトーリと信徒協働者がルチアノ神父を助け、オラトリオとユースセンターの活動を続けています。中東管区としては初めて、支部の財務は信徒のジョニー・ガジ氏に任されています。
 訪問中、オラトリオのいくつかの活動に参加し、特に、多くが避難民である約350人の子どもたちの夏のプログラム開始に参加できたのは、うれしいことでした。カフルーンの地域は、シリアでも比較的平穏なところです。そのため、ホムス、ダマスコ、アレッポなどから多くの家族連れがこの谷に逃れてきています。
 プログラムの開始を宣言し、あいさつするように頼まれました。本当の喜びについて子どもたちに話すことにしました。キリストと出会うことによって心から湧いてくる喜びです。大きな苦しみの中にあるとき、キリストに信頼を置かなければならないと、子どもたちに話しました。キリストはきっと慰めをくださると。
 オラトリオではまた、中学校入学や期末試験に備える勉強コースも始まっていました。サレジオ会員たちは、かなりの数の先生を集めることができ、子どもたちは勉強を教わっています。
 この2年間、私たちを助けてくれるようになった数名の恩人のおかげで、50家族ほどを、費用を取らずに迎え、世話できていることを、神様の摂理に感謝しなければなりません。また、オラトリオの活動を続けるために私たちを支え、共に働いてくれる多くの方々に感謝します。
 
アレッポのサレジオ会

 7月5日、土曜日、ある家族と共に、私たちは車でアレッポに向かいました。比較的安全な道を通りましたが、長く続くこの戦争のもたらしたおびただしい荒廃を目にしました。闘い、苦しみ、死んだ数多くの人々のことを考えました。どこに目を向けても、激しい戦争の跡ばかりでした。住人のほとんどいなくなったいくつもの村、廃墟となった、あるいは完全に破壊された家々を見ました。この荒廃を見ると泣きたくなります、そして戦争のむごさは人々の日常生活に大きな影響をもたらしています。
 町が無秩序におおわれているのは一目瞭然でした。それは想像に難くないことでした。アレッポはこの内戦の被害に最も苦しんだ町の一つだからです。
 私が生まれ、育ち、サレジオ会員として暮らしたサレジオ・センターに足を踏みいれるとき、いつも感動します。サレジオ会員たちと子どもたちに会い、喜びでいっぱいになりました。皆、温かく迎えてくれました。私たちは歌を歌い、歓声をあげ、抱き合いました。サレジオ・センターは、まことに平和と希望のオアシスです! 夜休む前に、私の部屋のドアに結ばれていたメモに心を打たれました。次のように書かれていました:「アレッポへようこそ。世界で最も危険な町とされながら、アレッポはまだ生きています。」
 日曜日の朝、今年の1月に要理教室に向かう途中、戦闘に巻き込まれ亡くなった11歳の少年、ジャックを追悼してミサをささげました。
 アレッポ滞在中、町のいろいろな地区に行ってみましたが、破壊と悲しみばかりを目にしました。戦闘、そして電気と水の不足が日常茶飯事です。水不足解消のため井戸の掘削が試みられましたが、水が汚染されていたため、住民の一部は体調をこわしました。非常に質の悪い水を非常に高い値段で買う場合もあり、水不足は人々にとって大きな苦しみとなっています。
 どの家庭も、負傷したり、亡くなったり、誘拐されたりした親族がいます。若者たちの心は追い詰められ、いつでも脱出したい、どこでもかまわないと望んでいます。彼らは希望を失っています。2年間、町を出ておらず、毎日、死と隣り合わせ、たえず起きる爆破のため、家を出かけるとき、その日無事に帰れるかわからないのです。
 人々は疲れ、ストレスをため、落ち込んでいます。そのため多くの人がアレッポを後にし、国外に移住しています。
 サレジオ会は、地元の教会と、キリスト教徒でないすべての善意の人々と共に、あらゆる可能な方法で住民を支えるため、まさに奇跡的な働きをしています。子どものための夏のプログラムには、600人以上の子どもたちが参加登録しました。院長のジョルジュ・ファタル神父は、シモン・ザカリアン神父と、夏の間手伝いに来たピエール助祭と共に、子どもたちのための惜しみない心、愛、献身のすばらしいあかしとなっています。
 私はリーダーたちともすばらしい会合をもちました。リーダーたちはさまざまな困難にもかかわらず子どもたちと過ごし、喜びとささやかな平穏を分かち合うため、自分の時間を無償で差し出しています。なくてはならないサレジアニ・コオペラトーリの皆さんにも会うことができ、そして最後に、数家族と、また何人かの子どもたちと、個別に会うことができました。苦しみの中にある彼らの言葉に耳を傾けるのは、とても大切なことです。体験していることを霊的に、親しく話せることが必要だからです。
 そして主は、新しい召命をくださることによって私たちを祝福されました。全中東管区で唯一の召命は、大いなる苦しみの地から与えられました。
 
ダマスコのサレジオ会

 ダマスコの支部に到着した私は、会員たちと出会う喜びに恵まれました:院長のアレハンドロ・レオン神父、副院長のムニール・アナシ神父、フェリーチェ・カンテレ神父です。3人を助けているのは、シリア人の修練準備期生メヘラン、彼はメソポタミア地方出身で、今年、ローマのジェンザーノで修練期を過ごすためシリアを後にします。
 子どものための夏のプログラムに参加でき、うれしく思いました。中心部から遠い地区に住む350人以上の子どもたちが参加していました。多くの道路封鎖のため危険な状況であるにもかかわらず、子どもたちが活動に参加したいと願っている様子は心強いものでした。子どもたちを助けるため、サレジオ会員たちは小型バスで送り迎えをし、センターでは食事を提供しています。
 教会に入りきらないので、私たちは中庭でミサをささげ、聖体行列と聖体礼拝をもって締めくくりました。私たちはシリアの平和を聖体のイエスにゆだねました。この国で起きていることについて、子どもたちと話しました。シリアが悪魔に攻撃されたのだと。子どもたちは誰一人、これほどの残虐なことをどうしてできるのか理解できませんでした。
 それから、幼稚園とダマスコのイタリア病院を運営するサレジアン・シスターズの2つの共同体を訪問しました。
 ここでも、カフルーンとアレッポ同様、サレジオ会は数家族に社会‐経済的支援を提供しています。サレジオ会員たちはキャンプを企画し、子どもたちをマーラの私たちのセンターに連れて行き、数日間、友情と穏やかな雰囲気の中で過ごしました。
 私はダマスコから再びレバノンに戻り、オラトリオ・ユースセンターのあるアル・フッスーンと技術訓練校のあるアル・フィダルの会員たちを訪問しました。ここでも、サレジオ会員とコオペラトーリは、困難な状況にあるシリア難民に慰めと支えを提供しています。難民の人々は精神的、社会‐経済的支援を受けています。

結び

 シリアの情勢は非常に複雑です。国内外のさまざまな要因や勢力が働いており、解決策を見いだすのは困難です。これまでのところ、持続的平和への意志は示されていません。多くの利害が絡み合い、その代償を払うのは普通の人々、子どもたち、そして特別な意味で少数派のキリスト者たちです。
 そのため、まことの平和を与えてくださるよう、私たちは主に願います、そして人の心を清めてくださるように、人々が進むべき道を理解するようになり、可能な限り平和に共に生きる道を求めて努力するようにと願います。主が、私たちの歴史のこの悲劇的な時に、私たちのキリスト者兄弟姉妹に、そして“愛しいシリア”のすべての人に、力、勇気、堅忍をお与えくださいますように。

 

(ANS – シリア・ダマスコ 2014年9月22日)
http://www.infoans.org/2.asp?sez=2&sotSez=13&doc=11355&lingua=2