シリア 紛争に苦しむ人びととサレジオ会
シリア紛争が始まって2018年で8年目となりますが、3月現在、ますます危機的状況に陥っています。
シリア・ダマスカスでサレジオ会のオラトリオは「平和のオアシス」と呼ばれ、戦闘が続く中でも現地で暮らす人びとの精神的・物的支援活動を続けてきましたが、ついに活動を休止せざるをえない状況となっています。
2018年1月〜2月にANS(サレジオ情報局)に掲載されたシリア関連ニュースをまとめて紹介します。
シリアの苦しむ人々、教会の声に耳を傾けるため、後半の最新ニュースもぜひお読みください。
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【シリア 「平和のオアシス」】
(ANS – 2018年1月10日 シリア・ダマスカス)
http://www.infoans.org/en/sections/interviews/item/4669-syria-salesian-oasis-of-peace-in-the-war-raging-in-damascus
シリアの首都ダマスカスにあるサレジオ会支部の院長ムニル・ハナチ神父は、最近の内戦の状況、サレジオ会の活動について現地から伝えている。ダマスカス郊外に拠点を置く武装勢力は内戦の間、絶えず首都を砲撃してきたが、ここに来て政府軍がその制圧に乗り出したため、首都への報復攻撃が激化している。
内戦中も、死の影にさいなまれ生活に困窮する子ども・若者、市民に門戸を開き、オラトリオ、生活支援、祈り、祝祭の場として精神的・物的支援をつづけてきたサレジオ会は「平和のオアシス」と呼ばれている。悲しみや恐怖に覆われた日常の中、ここに来れば安らぎ、友情、喜びを見いだすことができた。しかし今年に入り、戦闘が激化し、何度も活動を休まなければならなくなっている。子どもたちがセンターに来るために街中を移動することが危険になっているからだ。幸い、サレジオ会の教会・センターはまだ直接の砲撃の被害を受けていない。
ハナチ神父が院長を務める支部のユースセンターはダマスカスの中でも最も大きいものの一つ。小学生から大学生までの1300人の少年・青年が、1日数時間、戦闘を忘れる時を過ごす。サレジオ会は人々を温かく迎える雰囲気を心がけている。発電機があり、水も確保できている。これらは現在、多くの市民が事欠いているものだ。訪れるすべての人に1日1回、食事を提供している。
ハナチ神父は、シリアにおけるキリスト者共同体の存在を守るためにできることを尽くすのが自分たちの仕事だと言う。多くの人がシリアを去ったが、サレジオ会は国にとどまる人々、家族を助けるために力を尽くしている。戦争は人々の人生に重くのしかかる。多くの人が犠牲となり、多くの人が拉致された。7年内戦が続く中、若者に国を去るなとは言えない。この戦争のすべてが終わることを祈っている、国を立て直すのに何年かかろうと、とハナチ神父は語った。
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【シリア 「未来に希望を」若者への教育・経済支援】
(ANS – 2018年1月18日 シリア・ダマスカス)
http://www.infoans.org/en/sections/news/item/4722-syria-enlightening-the-future-educational-and-economic-support-for-young-people
2017年以来、シリアのサレジオ会は若者の技能向上のための活動にさらに力を入れている。2011年から続く戦争の混沌とした状況を乗り越え、自分や家族を支える仕事を見つけやすくするためだ。サレジオ会は、大学や職業訓練の学費を支援する新たな取り組みを始めている。
1928年に施行された教育の国有化のため、サレジオ会はシリアに正規の教育機関を持っていない。そのためこのプロジェクトは重要であり、マドリッドのサレジオ宣教事務局の力強い支援を受けている。昨年の3月25日に立ち上げられたプロジェクトにより、これまで45人の若いシリア人が情報技術や英語などの技能習得コース、専門学校、大学で学んでいる。さらに、美容院、レストラン、パン屋など事業を始める6人の若者が経済的支援を受けた。サレジオ会は支援を受けた若者をフォローし、シリアの若者の未来への投資というプロジェクトの意義への意識を育んでいる。
情報提供: Misiones Salesianas
https://misionessalesianas.org/noticias/iluminando-futuro-proyecto-siria/
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【シリア ダマスカスのドン・ボスコの祝い】
(ANS – 2018年1月31日 シリア・ダマスカス)
http://www.infoans.org/en/sections/news-photos/item/4794-syria-don-bosco-festival-in-damascus
2018年1月29日、ダマスカスのサレジオ会オラトリオでドン・ボスコの祝日が祝われた。列席した教皇庁大使マリオ・ゼナリ枢機卿やほかの司祭たちと共に、院長のムニル・ハナチ神父がミサを司式、大勢の若者が参加した。
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【シリア サレジオ会オラトリオ、爆撃のため活動休止】
(ANS – 2018年2月21日 シリア・ダマスカス)
http://www.infoans.org/en/sections/news/item/4937-syria-the-bombings-stop-the-activities-of-salesian-oratory-in-damascus
ここのところ、シリアの首都ダマスカスの情勢は悪化している。砲弾が住宅地や道路、町の各所に打ち込まれ、多くの死傷者が出ている。
このため今年2018年に入ってから、ダマスカスのドン・ボスコ・センターは子ども・若者たちを守るため幾度か活動を休止してきた。現在、「カテキズム、グループ会合、すべての活動を、休止しています。」
「状況がおさまり活動を再開できるのを待っています。シリア、特に深刻な流血の事態になっているダマスカスの平和を祈るばかりです。」サレジオ会中東管区広報はこのように伝えた。
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【イタリア シリアの平和のため、祈りの日】
(ANS – 2018年2月23日 イタリア・ヴァルドッコ)
http://www.infoans.org/en/sections/news-photos/item/4946-italy-valdocco-a-day-of-prayer-for-peace-in-syria
平和の賜物を願い求める祈りと断食の日として教皇フランシスコが呼びかけたその日、トリノ・ヴァルドッコの扶助者聖マリア大聖堂に集った人々は、シリアのサレジオ家族の必要のために祈りをささげた。人々の祈りを象徴し、扶助者聖母の絵の前にろうそくが灯された。シリアのための祈りの集いは、総長アンヘル・フェルナンデス・アルティメ神父が呼びかけ開始されたヴァルドッコの大聖堂献堂150周年を記念する、感謝と祈りの道のりの一環となった。
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【シリア ダマスカスの苦しみの時】
(ANS – 2018年2月23日 シリア・ダマスカス)
http://www.infoans.org/en/sections/news/item/4951-syria-the-difficult-hours-that-damascus-is-experiencing
ダマスカスは苦しみの時を過ごしている。「7年の戦争の間、絶えずこのようなことはありましたが、ここのところますます苦しくなっています。ダマスカス郊外の、さまざまな原理主義グループの拠点になっているグータから、たくさんのミサイルや砲弾が打ち込まれているからです。」 ダマスカスのドン・ボスコ・センター院長ムニル・ハナチ神父はこのように語った。
シリア内戦は2018年3月に8年目に入る。政府はグータ地区奪還の最終局面に入り2月下旬から砲撃を強めている。一方、グータ地区からダマスカスに、多数のミサイルが降り注いでいる。「ミサイル攻撃によって多くの市民、子どもが亡くなっています。そのため、多くの学校が休校し、首都には準戒厳令が布かれました。人々の間には大きな不安があり、私たちのオラトリオさえも、すべての活動を休止せざるをえなくなりました。バスに乗ったり歩いたりしてここに来る子どもたちがミサイルの犠牲になるかもしれないからです。状況が少し落ち着くまで、活動を再開できるまで、家にいるように呼びかけています。」
ハナチ神父は次のように言葉をしめくくった。「シリアの人々が経験している悲劇を西側諸国が沈黙のうちに眺めるなかで、そしてシリアの私たちの現実を、数多くのウェブサイトやメディアが情報操作するなかで、友人の皆さん、私の声が皆さんに届くことを願っています。この四旬節、祈りの時、父なる神に立ち帰るこの時に、皆さん一人ひとりのことを思い出しています。復活の太陽が権力を持つ人々の心に触れ、この打ちのめされた国に平和が回復されますように。」
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【イタリア ペットゥノン修士の忘れがたいシリア】
(ANS – 2018年2月23日 イタリア・トリノ)
http://www.infoans.org/en/sections/news/item/4952-italy-how-can-you-forget-the-indelible-memory-of-a-battered-syria-in-the-words-of-br-pettenon
「友人の皆さん、昨日、報道通信各社のニュースを読みながら、血の凍るような思いをしました。最近の戦闘激化によるシリアの首都の劇的状況のため、ダマスカスのサレジオ会の活動が休止したとのニュースがあったからです。たった4か月前、私たちはダマスカスにいました、彼らの客人として。」
by ジャンピエトロ・ペットゥノン修道士, サレジオ会員,
“Missioni Don Bosco”代表
私たちの出会った若者、サレジオ会員、その地域の人々の顔、食事を作ったり、掃除やメンテナンスの奉仕をしたりするためにオラトリオに出入りする人々の顔が、再び私の目の前にあります。10月、何とか保たれていた停戦協定に、皆は希望でいっぱいでした。最悪の時期が過ぎたことを皆期待していました。残念ながら、そうはなりませんでした。
院長のムニル神父と会員が、子どもたちの命をこれ以上危険にさらさないためにオラトリオを閉める決定をしたということは、状況がかなり深刻だということを意味します。経験した爆撃の恐怖について話してくれたときにあふれていた涙を、どうして忘れることができるでしょう。手榴弾や迫撃砲がその命を悲惨に陥れる以前の親戚たちについて、話してくれたのを、その親戚の名前を、どうして忘れることができるでしょうか。この人々、無実の犠牲者たちの大いなる尊厳とまことの信仰を、どうして忘れることができるでしょうか。彼らは立ち止まって悲劇を嘆くかわりに、未来への夢と希望を語ってくれました。どうしてこれらすべてを忘れることができるでしょうか。
数日のうちに、この人々は、爆撃によって粉々になるガラス、1日の大半電気のない生活、買い物に出かけるのが危険なので食糧に事欠く生活に戻ったのです。出かけられたとしても、どこで食糧が買えるというのでしょう。市場や商店は売るものを補充するのが困難になっています。輸送がほぼ完全に止まっているのです。通りは最も危険な場所になっています。……サレジオ会員を含め皆の上に不安・恐怖の及ぼす心理的な強いストレスは、言うまでもありません。修道院の中庭を子どもたちに開放できなくなったサレジオ会員たちは、それでも、助けや食糧を願ってそっと扉を叩く一家の父親や母親たちを、温かく迎えつづけているのです……。
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【ANS 抑圧された人々の沈黙】
(ANS – 2018年2月28日 イタリア・トリノ)
http://www.infoans.org/en/sections/editorial/item/4978-the-silence-of-the-oppressed
Photo: Missioni Don Bosco
ソーシャルネットワークはシリアの悲劇にまつわる画像やコメントであふれている。最も弱い人々の大変な苦しみを伝える映像に、誰しも心を動かされずにいられない。
1948年以来、シリアで働いてきたサレジオ会は、ダマスカスやアレッポのおびただしい子ども、若者たちの苦悩を体験している。
一人のサレジオ会員が声を上げ、この戦争の基本的な側面について警告している:情報の客観性、あるいはその欠如についてだ。ムニル・ハナチ神父はシリア政府が「聖人や天使」の集まりではないと認めながら、この紛争に苦しむシリア国民の多くがアサド政権を支持していると言う。
「グータは、報道されているような政権による弾圧の犠牲者の暮らす地区ではありません。全くその逆です。ここ何年も、グータから首都に向けてミサイル攻撃があり、無実の貧しい市民が殺されています。誰も語らない、どれほど多くの子どもの死があったことでしょう。彼らは反体制派ではありません。テロリストです。彼らは世界中からやってきていて、シリア軍はシリア人とシリアの国の尊厳を防衛する権利があるのです。」
グータの爆撃は、地区を奪還しようと政府が最終攻撃を準備する中、激しくなっている。「一日中、政府軍機が首都の上空を飛ぶ音が聞こえます。早く攻撃が始まり、アレッポが解放されたようにグータ地区も解放されることを私は願っています。」
シリア内戦は8年目に入っている。ソーシャルネットワークでは、事実について「部分的情報」しか提供しない映像やメッセージを通して戦争が伝えられ、私たちの意識のうちに偏見を助長、形成し、現実の誤った理解を作り上げている。数多くの疑問に、誰も答えていない。この紛争はどのように始まったのか? 何年もの間、ダマスカス、アレッポ、そのほかのシリアの町を奪い拠点にしてきたこの反政府勢力を、誰が資金援助しているのか? そして、この戦争に関わる諸勢力には、ほかにも利害の絡む目的があるのではないか?
そういった諸勢力・権力にとって、デジタル・メディアの可能性を利用し、客観的情報の境界をあいまいにし、自らが発信したものであるかぎり、その誤情報の霧をかからせ続けることが重要なのだ。
今年、教皇フランシスコはこの危険に警鐘を鳴らしている:「偽ニュースが効果を発揮するのは、主に本物に類似しているというその特徴のためです。すなわち、もっともらしく見えるためです。第二に、こういった偽でありながら真実のように見えるニュースは、あら探しをして誰かを悪者に仕立て、情報の受け手の注意をひきつけることができます。その際、人々の中に根づいたステレオタイプや広く蔓延する偏見に頼るのです。」
伝えられること、目にすること、書いてあることが真実なのかを問う批判力を持つことが大切だ。ソーシャルネットワークに載るものについて、それが本当なのか、事実なのかを問うと良いだろう。
シリアの場合、はなはだしい情報の誤りがあり、シリア国内の主要メディア、キリスト者の声、シリアの人々の声が欠落している。
ハナチ神父は言う。「ここ何年か、シリアについて語られることの多くは情報操作されています。ここで何が起きているのか、なぜ誰も私たちに聞こうとしないのでしょうか? どうかお願いします。私たちが皆さんに願うのは、この7年間私たちが経験してきたことを語ってほしい、ただそれだけなのです。」