サレジオ会日本管区会員の青少年保護の指針
サレジオ会日本管区会員の青少年保護の指針
【第一部 教会およびサレジオ会の基本的方針】
1.この指針の趣旨
この指針はカトリック・サレジオ修道会(以下、サレジオ会とする)会員が青少年の基本的人権を擁護し、サレジオ会及び会員の品位と信用を維持確保することを目的とする。
青少年(男女)に対する身体的・心理的・性的虐待及びネグレクト、セクシャルハラスメント等は非人間的行為であり、また、日本国憲法並びに国連児童憲章に規定する青少年の基本的人権を侵害する行為でもある。さらに、わたしたちのサレジオ会の創立者である聖ヨハネ・ボスコの青少年への尽きない愛に反し、一人ひとりを神の子として大切にするイエス・キリストの福音の教えにも全く反している。これらのことに鑑み、サレジオ会の会員によってサレジオ会の事業または会員の業務に関連して身体的・心理的・性的虐待及びネグレクト、セクシャルハラスメント等が行われることを防止し、解決のための処置について必要な事項を定める。
2.サレジオ会会憲・会則等がわたしたちに求めていること
わたしたちサレジオ会員の生活を規定する会憲・会則は青少年とのかかわりについてどのように述べているか、以下に抜粋する。
①「わたしたちドン・ボスコのサレジオ会員は・・(中略)・・教会の中で、青少年、特により貧しい青少年に対して、神の愛のしるしとなり、伝え手となろうとする。」(会憲第2条)
②「・・サレジオ会員は開かれた心、温かい心を持つ。進んで相手に近づき、つねに慈愛と尊敬と忍耐をもって相手を受け入れる心構えを持つ。サレジオ会員の愛は、父・兄弟・友人の愛であって、・・ドン・ボスコのつねに勧めていた愛情である(アモレボレッツア)。サレジオ会員の貞潔と均衡は、会員に霊的な父のこころを与える。」(会憲第15条)
③「サレジオ会員は人々との関係及び友情の面で、立願のとき引き受けた義務に一貫して忠実でなければならない。そのため、貞潔のあかしを曇らせるような、危険であいまいな姿勢や態度は避けるべきである。」(会則第68条)
④「たった一人の先生の落ち度で、教育事業全体が危機に陥るということを忘れるべきではない。」(青少年教育における予防教育法―聖フランシスコ・サレジオ会系教育施設規則集)
⑤「どうしても避けるべきことは、どんな方法にせよ、生徒をたたいたり、苦しい姿勢でひざまづかせたり、耳を引っぱったりするような体罰である。こういう罰は国の法律で禁じられている上に、生徒を怒らせ、また教育者自身の品格を下げる。」(同掲上)
このように会憲・会則やドン・ボスコの著作集には、会員が青少年の前に神の愛のしるしとなるためには、愛情深さと、父の愛をもって青少年を愛するために精神的均衡と情操面での成熟が大切であると私たちに勧めている。したがってこれらに反する青少年へ行為・態度・対応は教育上・司牧上避けなければならない。
【第二部 予防】
3.わたしたちが避けるべきこと
わたしたち会員が避けるべき行為、態度、対応には具体的には以下のようなものがある。
①身体的虐待
身体的虐待は青少年に対し、打撲傷、あざ(内出血)、骨折、頭部外傷、首を絞める、殴る、蹴る、投げ落とす、熱湯をかける、布団蒸しにする、溺れさせる、逆さ吊りにする、異物を飲ませる、冬戸外に締め出す、縄などにより身体的に拘束する、たばこによる火傷など外見的に明らかな傷害を生じさせるなどの行為をさす。
②心理的虐待
心理的虐待は青少年に対し、暴言等の言葉による脅かし、脅迫、威嚇、無視したり、拒否的な態度を示すこと、皮肉などの心を傷つけることを繰り返し言うこと、大勢の前で恥をかかせるなどの自尊心を傷つけるような言動をすること、他の人とは著しく差別的な扱いをすること、個人の出自・身体的特徴等を挙げてからかうこと、特定の場所に閉じ込め隔離すること、感情のままに大声で怒鳴ったり指示したり叱責したりすること等の行為をさす。
③性的虐待
性的虐待は青少年に対し、性交、性的暴行、性的行為の強要・教唆など、性器や性交を見せること、みだりに青少年の身体に触れること、裸の写真を撮る等の行為をさす。
④ネグレクト
ネグレクトは青少年に対し、長期にわたってその身体的、心理的な必要に応えず、青少年の健康や発達に深刻な害のおよぶ危険を生じさせることをさす。適切な食事を与えないこと、ひどく不潔なまま長時間放置すること、他者による青少年に対する身体的・心理的・性的な虐待が行われているのを放置すること、見て見ぬふりをする等の行為をさす。
⑤セクシャルハラスメント
セクシャルハラスメントとは他人に不快を感じさせる性的な関心および欲求に基づく言動並びに性別により役割を分担すべきとする意識に基づく言動などをさす。性に関する言動の受け止め方には、個人間や男女間、その人の立場などにより差があり、セクシャルハラスメントに当るか否かについては相手がどのように受け止めるかの判断が重要になる。
以上のどの項目についても、相手方からの訴えがあれば犯罪として裁かれる危険がある。
参考【刑法、児童虐待防止法、学校教育法(特に第十一条)】
4.青少年の必要に応える会員の実践の行動指針
①一般的指針
・青少年に身体的暴行を加えることはどのような場合にも行ってはならない。
・青少年に暴言をはいたりしてはならない。
・青少年のいる前で性的な冗談や話をしてはならない。
・青少年に性について話をする必要のある場合は十分な注意と細やかな配慮が必要である。
・青少年と個人的に話す必要のある場合は疑念の生じることのない適切な場所で話さなければならない。
・青少年と移動・旅行をする場合は疑念の生じることのないよう十分に賢明な配慮が必要である。
・青少年は皆同じように尊重されなければならない。
②身体的品位の尊重
・青少年の身体的品位は常に尊重されなければならない。
・青少年に対し不適切な身体的接触を行ってはならない。
③プライバシーの尊重
・青少年のプライバシーの権利は常に尊重されなければならない。
・プライベートな場所(居室・手洗い所・浴室など)での青少年のプライバシーが守られるように、配慮されなければならない。
④障害などのために特別な必要がある青少年
・特別な必要のある青少年のために身の回りの世話をしなければならない場合、両親あるいは保護者とそのことについて話し合い、共通の理解をもっていなければならない。
⑤心に傷を負った青少年
・心に傷を負った青少年は、世話や安全の確保のためにほかの青少年よりも大人に依存する場合がある。そのため、会員はそのような青少年への細やかな配慮と、明確、正確な意思疎通を心がけることが必要である。
・会員は心に傷を負った青少年がいじめやその他の虐待の対象となる可能性が、より大きいことを知る必要がある。また、その青少年たちの身体的・感情的限界についても知る必要がある。
・会員が心に傷を負った青少年に注意深く耳を傾けることは大切である。そのような青少年にとって、心に抱いている思いを適切に表現することが困難な場合があり、会員は青少年の表現の奥にある真意を汲み取るようにしなければならない。
5.青少年の保護に関する会員の養成の必要
青少年の保護に関する対応は会員の普段の鋭敏な気づきにかかっている。またこの点に関する青少年や社会の感受性は日々厳しくなっている。わたしたち会員は青少年のための活動をしているのであるから、個人としても共同体としても養成初期からの生涯にわたる青少年保護のための研修や修養を怠らないようにしなければならない。特に養成期間中には青少年との対応における個人の性格と傾向についての専門的な診断と指導を受ける必要がある。会員は青少年とのかかわりについて実践的に養成されなければならない。
【第三部 事後の対応】
6.虐待が実際に起きたとわかった場合、あるいは起きたと思われる場合
虐待が明らかになるのは、さまざまな場合がある。
・青少年本人が虐待のあったことを明かす場合。
・ある青少年が別の青少年について、虐待があった、あるいは受けていると大人に話す場合。
・身体的に危害を加えられている兆候(あざ)等が見られ、青少年自身はそれについて説明できない場合。
・青少年が示す問題行動によって、何らかの虐待を受けていることが推測される場合。
7.虐待したと思われる会員についての通報
虐待した会員について知らされることは、関わる人々のうちにさまざまな感情的反応を引き起こす。どのような反応であろうと、また虐待がどのような形で明らかになろうと、実際に起きたか、その疑いがあるだけであるかにかかわらず、以下の手順に従い、正しく対応されなければならない。たとえ真実が確かでない場合であっても、迅速に対応しなければならない。
①対応時の取るべき態度・姿勢
・落ち着いて対応する(動揺して我を失い、過剰に反応しない)
・相手が言いたいことを言えるように耳を傾け、真意を感じ取るように努める。
・内密にとどめる、なにもかもうまく解決する、といった約束をしない。虐待について通報したのは正しかったと伝え、説明する。
・自ら直接問題に対応する役割を引き受けない。
・虐待の加害者とされる会員について肯定的否定的両面において評価をしてはいけない。
・語られた言葉を「文字通り」、出来るだけ早急に書き留める。
・語られたことについて、会員の間で「噂話」をしない。
②対応の手順
・虐待の疑いを抱いた会員、あるいは虐待について明かされた会員は口頭だけでなく書面にして院長に速やかに報告し、院長は管区長に報告する。(事業所においては責任者にも報告する)
・当該支部の院長よりその報告を受けた管区長は、調査委員会を設置し対応を協議する。
8.虐待等の行為に対する処分
会員が虐待の加害者になった場合は、その内容によっては、カトリック教会全体の奉仕者たるにふさわしくない非行等に該当するとして、教会法の規定およびサレジオ会の規定に従って処分されることがある。また法的に訴えられた場合には、日本の法律に基づいて裁かれる。その場合会員は一個人として対応しなければならない。サレジオ会はその件に関し一切関知しない。
9.加害者の再発防止
二次被害または再発の可能性がある場合は、直ちに加害者を職務からはずし、被害者と接する機会がないような措置を講じた上で、適切な回復プログラムに参加するよう命じるなど、二次被害および再発を防止するために、必要かつ適切な措置を講じ、当該支部の院長よりその報告を受けた管区長は、調査委員会を設置し対応を協議する。
10.記録の保管
虐待等に関する通報、受付、解決までの経緯と結果の記録は、サレジオ会管区本部に保管する。
11.本指針の見直し
青少年の保護の本方針は3年ごとあるいは、必要に応じて見直しを行う。指針の改定にはそれまでに得られた知見や法令等を反映させる。
12.青少年の保護のための倫理規定の範例
青少年保護のための倫理規定
わたしは、人種、肌の色、性別、言語、宗教、政治その他の信条、国籍、民族や社会的出自、財産、障害、生まれ、その他の条件に関わりなく、尊敬を持って青少年に接します。
わたしは、青少年・未成年の前で、人を傷つけたり、虐げたり、性的に挑発したり、おとしめたりする言葉遣いをしたり、社会的に不適切な行動をとりません。
わたしは、青少年に対して言葉による暴力、身体的な暴力による罰・躾をおこないません。
わたしは、青少年の虐待や告発のある場合、定められた規定に従って、ただちに担当者に報告します。
13.施行
本指針は2012年4月1日より施行する。
ただし、一年間は周知期間とする。
2012年3月26日
サレジオ会日本管区